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2019年12月25日

福岡民報2020年1月

有明海問題の真の解決を

福岡県議会議員  高瀬菜穂子

1、はじめに

「有明海問題の真の解決を」福岡県議会12月議会で論戦去る9月13日、最高裁判所は、諫早湾潮受け堤防開門をめぐる裁判で、国の請求異議を認めた福岡高裁判決を破棄し、高裁に差し戻すという判決を言い渡しました。「漁業権が10年で消滅する」などとした高裁判決は認められず、審理は継続することとなります。

さまざまにたたかわれてきた開門をめぐる問題について、この機会に、解決の道=開門を必ず勝ち取らなければなりません。

12月議会では、そのための議会論戦を行いましたので、報告をします。

2、潮受け堤防締め切りから裁判におけるたたかい

そもそも、この問題の契機は1997年4月の潮受堤防閉切です。 「ギロチン」と呼ばれた堤防閉切の映像は、強烈な印象を残す衝撃的なものでした。 私はこの時、教師生活最後の担任をしていました。入学したばかりの生徒たちから「先生、あれは何のためですか」「ムツゴロウさんはどうなるの」と質問攻めにされたことを思い出します。

その後の有明海の環境悪化は「有明海異変」と称され、空前のノリ不作の中、2001年には漁業者6000人が漁船デモを行うなど、開門を求める運動が市民ぐるみで広がりました。 農水省は、こうした声に押され、同年3月「ノリ第三者委員会」を立ち上げ、ノリ不作原因究明のための、短期・中期・長期の開門調査が提言されることとなります。ところが、国は自らが設置したノリ第三者委員会の提言であるにもかかわらず、1か月の超短期調査を行ったのみで、干拓工事を続けました。こうした中、「よみがえれ!有明訴訟」は提起されました。工事中止の仮処分決定が下された直後、工事車両が引き上げ、公共事業が判決で止まるという感動的な場面もありました。 しかし、福岡高裁ではこの決定が覆りました。その後たたかわれた本裁判で、2008年6月、佐賀地裁は開門判決を言い渡し、2010年福岡高裁はこれを維持、当時の民主党政権は控訴せず、開門判決は確定しました。

ところが、国は確定判決に従わず、「開門阻止訴訟」が提起され仮処分が下されると、「開門と開門禁止の相矛盾する義務の中で身動きが捕れない」などと述べて開門を拒みました。 訴訟が乱立する中で、国民にも問題の本質が分かりにくくなりました。 確定判決に従わない国の対応が解決の道を遠ざけてきたのです。

3、現在の有明海と諫早干拓地の状況

諫早湾干拓地にて先日、諫早湾干拓地に赴き、周辺漁民と干拓地に入植した農業者で開門を求め裁判を起こした方からお話を伺いました。漁民からは一様に魚がいなくなったという声がだされました。「以前は、台風のあとは海が攪拌されて大漁だったが、今年は台風のあと、死んだカニが水揚げされた。」との報告は衝撃です。これまでになく海況が悪くなっていることを実感させられました。

福岡の海域でも「魚が減っている」という声は同様で、「諫早周辺の被害が及んでくるのではないか」「昔の宝の海ではない。細心の注意を払いながら、びくびくしてやっている」ということです。

一方、農業者も、堤防締め切りで、九州一の巨大な湖ができ、飛んでくる大量のカモなどの食害に困っていました。ヘドロ化した淡水湖には食べ物がなく、広大な農場の野菜をたべ、その被害金額も膨大です。また、国は優良農地と宣伝していますが、夏は暑くねぎは溶けるし、冬は寒くてレタスが饅頭のように固まるとのことです。41経営体のうち12経営体がすでに離脱をしています。

広大な諫早湾干拓地は、すべてリースです。どんなに丹精込めて農業をやっても1坪も自分の土地にはなりません。裁判を起こされたこの方は、30ヘクタールを借り、年間600万円のリース料を国に払っているといいます。 「開門することで海水が入ってくれば、気温が一定になり、野菜が作りやすくなる。カモの害も減る。 水はパイプラインで引いてくればよい。畑なので多くはいらない。」と開門を主張しておられます。

対立していると思われてきた漁業者と農業者の主張が一致してきたことは、開門に向けて大きな力になります。

4、有明海再生のための「覆砂事業」に18年間で356億円、アサリの漁獲は半減(1500トン5億円程度) 県として「開門調査」を国に求めよ!

12月議会では、①潮受け堤防閉め切り前(1996年)と現在の漁獲量、漁協の組合員数の比較、 ②覆砂事業の規模と予算などを明らかにさせるとともに、 県として、国に対し開門調査を求めるよう強く要求しました。

1996年の漁協組合員数は5672人に対して、現在は1903人に減っています。 アサリの漁獲量は、96年には3000トンありましたが、2016年には50トン、2017年には500トン、2018年には1500トンです。回復しているとはいえ、締め切り前の5割です。タイラギは、96年には1500トンもありましたが、8年間漁獲のない状況が続いています。 かつてタイラギ漁師の方が、「海に潜ると、タイラギがひまわりの種のごとびっしりと立って、獲ってくれと言わんばかりやった」と言われたことを印象深く覚えていますが、その宝の海は失われたままです。

福岡県は、「有明海再生特別措置法」基づく県計画で、漁場環境改善のための「覆砂事業」を続けてきました。その規模は、18年間で1786ヘクタール、 事業費の総額は356億円です。 県はこうした事業によって、「アサリの稚貝が高密度に発生をしてきておりまして、漁獲量の増加に結びついてきている」と答弁。有明海の状況についても、「一部の魚種で厳しい状況にありますものの、関係者の努力によりまして、再生の兆しが見られてきている」との認識を示しました。

しかし、 356億円かけた覆砂事業によって、回復したアサリの漁獲量は1500トンで、売り上げにして5億円程度です。 タイラギは、干拓事業が始まってすぐに諫早湾内で獲れなくなり、やがてそれが有明海全体に広がりました。全く取れない状況が続いています。

以前国が行った1か月の短期開門調査でも、魚は帰ってきたとのことです。 開門させ、「有明海の子宮」「有明海の腎臓」といわれた諫早湾の自然の回復力で、宝の海を取り戻しましょう。そのためのたたかいが始まります。

みなさんの声をお聞かせください